読売調査会の提言

冷戦後における国連憲章の再度の変化に対応した平行現象と位置づけられる。つまり、安保理の機能が麻蝉していた冷戦時代には、二国平和主義」でも済まされたが、国連が活性化し、陣営を越えるすべての国に参加を求められている以上、日本だけが第九条を楯にこれを座視していることは許されない、という主張だ。

この「改憲論」の一つとして、読売新聞社憲法問題調査会が九二年にまとめた第一次提言を見てみよう。この提言の特徴は、旧来の「押し付け憲法論」を否定し、憲法が戦後の日本の平和に果たした役割に一定程度の評価を与えている点だ。さらに、憲法の前文のうち「われらは、いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従うことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立とうとする各国の責務であると信ずる」という箇所に注目する。

この主張によると、第九条第一項は、パリ不戦条約に発する国際通念であり、「国際紛争解決の手段として」という概念に自衛戦争は含まれない。さらに、「前項の目的を達するため」という文言によって、第二項を限定的に読み込み、自衛のための戦力は持てる、とする。

ここまでは、従来の政府解釈の延長線上にあるが、集団的自衛権の行使については、「一切行使できないとする政府解釈は誤りである」と指摘している。 また、「国際貢献」と憲法のかかわりについては、①憲法制定後に作られたPKOは、紛争当事者の合意を必要とし、軍事力の行使や威嚇を目的としていないのだから、第九条一項には抵触しない、②憲章第七章で定められた集団的安全保障措置は、国際的な正当性が確かな行動であり、第九条一項には違反しない、③同様に、第二項の交戦権の否認にも抵触しない、④日本は国連加盟国として、侵略を受けた国を助ける義務がある、という見解を取り、「日本は国連の平和維持活動に積極的に参加すべきである」としている。

その上で、「かつては空想的だと思われていた国連常備軍やそれに類する小規模な組織(国連平和実施部隊)についても、現実的な可能性が出始めている」として、憲法の安全保障関係条項の解釈の混乱を正すために「安全保障基本法」を制定するよう提言している。