側近議員は自画自賛の冊子を作成

26日の参議院本会議で再生可能エネルギー買取法案と特例公債(赤字国債)法案が可決され、菅首相は26日午後の役員会で退陣を表明した。民主党は速やかに新代表を選出し、月内にも新首相が今国会で首班指名を受ける見通しだ。

2010年6月4日に鳩山内閣が総辞職。同日に行われた民主党代表選を経て、菅内閣が4日後の6月8日に正式スタートしてから約1年3ヶ月。小泉内閣以後では最長の在任期間となった菅首相

26日の各紙はその総括として、この内閣の軌跡を綴る中、菅内閣としても首相の側近が「極めて多くの成果を挙げた」と自賛する文書を作成している。

読売11面「唐突な表明次々」「混迷 自ら招く」

読売新聞は11面で菅政権の1年3ヶ月の軌跡を詳細にまとめている。書き出しは「首相は次々と改革案を打ち上げては民主党内から反発を招き、多くは中途半端に終わった。」と厳しく指摘。

昨年の参院選期間中の消費増税やTPP参加問題などでは「事前に調整もせず、唐突に方針表明する稚拙な政治手法」と述べ、中国漁船衝突事件北方領土問題などの外交面については「『外交空白』と批判された菅政権は首相に確固としたとの指摘は多い」と振り返った。

また、震災・原発事故対応をめぐっては「官僚機構を排除するかのような政治手法や、場当たり的な指示で対策は後手に回り」、「首相の(脱原発関連)発言は原発輸出といった経済外交にマイナスに作用した」と断言する。

3ヶ月「居座った」総理

菅首相は6月の内閣不信任案を、採決日ギリギリで自身の退陣をほのめかして否決させることに成功してから約3ヶ月首相の座に「居座って」きた。周囲には「この間、俺がやりたいと考えた事は、ほぼ全てやれた」と漏らしているという。

だが、読売によると、首相は実は6月末には辞任すると考えていたという。なぜそこから首相の座への執着を見せたのか。紙面は以下のように指摘する。

しかし、仙谷由人・党代表代行(官房副長官)らが公然と早期退陣に動いたことへの反菅もあってか、首相は「死に体になってしまう」と危機感を強めた。

首相は、6月22日に会期末を迎える国会を大幅に延長し、仙谷氏らの動きを封じ込めようとした。

その際に思いついたのが特例公債法案成立などの「退陣3条件」だった。

首相はこの間の「延命」を振り返り、側近議員に「『菅はおかしいくらいやめない』と思われるくらいで、ちょうど良かったんだ」と強がってみせたという。

朝日新聞15面・連合会長「統制とれない組織、反省を」

朝日新聞ではオピニオン面で宇野重規・東大教授と古賀伸明・連合会長の対談を掲載。見出しは「菅さんは代わる。民主党はよくなるのだろうか」だが、2人はこの問いを「幻想」と否定的に捉える。古賀会長は6月2日に菅首相が辞任の意思表明をしてから日々、政治空白が積み重なったと指摘。

そうした危惧から、「労働組合が政党の人事に介入することはいいことではない」としながらも、退陣時期を明言するよう求めてきたと語った。

しかしながら、短命政権は残念としながらも、政権交代には一定の成果もあったとする古賀会長は、2年間の民主党政権を以下のように指摘した。

事業仕分けなどで情報が開示され、国民と政治が近くなった。
・政治主導も方向としては間違っていない。
族議員がほとんどいなくなった。
・雇用・労働分野で新たなセーフティーネットとして「求職者支援法」が成立。
・「雇用戦略対話」で最低賃金を最低でも800円以上、平均で1千円を目指して努力すると明記された。

一方…

・官僚との意思疎通や党内の意思統一がうまくいかず空転。
・国家観や社会観、歴史観などの基本的な価値観が合意されていない。
・そもそも綱領すらない政党の弱点が表面化した。

こうしたデメリットを掲げながらも、会長はこの現状を「新たな仕組みやシステムをつくる前の混乱だと考えたい」とポジティブに捉える。

この見方について当面は2大政党制のもと、有権者の一票で政権が交代するという経験を重ねて成熟する必要があるのではと、昨今の混迷する政治を大局的に見ていた。

毎日10面「大連立を含む政権の枠組みを考える」

毎日新聞もオピニオン面「論点」で「民主党代表選と与野党協議」と題して特集を構成。ここでの主要論点は「大連立」を含む政権の新たな枠組み。竹中治堅・政策研究大学院教授と櫻田淳東洋学園大教授が「大連立」を訴える持論を展開する。

竹中治堅・政策研究大学院教授「大連立以上の安定なし」

竹中治堅・政策研究大学院教授は野党時代の民主党が衆参の「ねじれ」を利用して与党を追い詰めながらも、政権交代後、特に昨年の参院選敗北後にはねじれの怖さを忘れて衆院優位を振りかざしたと指摘。

近年、参議院の価値そのものが疑われる状況にあるが、竹中氏は民主党が「参院の力を的確に認識していない」と述べ、「それなら大連立で参院過半数を回復した方が民主党にはメリットがある」とし、税制や社会保障制度などの改革で差がほんとんどない2大政党で責任を共有するのは大切だと語り、大連立を支持。

「今回の代表選直後がそのぎりぎりのチャンスだと思う」と早急な大連立の確立を訴えていた。

櫻田淳東洋学園大教授「自民党主導の大連立を」

櫻田淳東洋学園大教授は「ポスト菅」となる次期民主党代表が次の3つの「現実」に向き合う必要があると指摘する。

1)鳩山・菅内閣民主党政権担当能力の証明に失敗したこと
2)一昨年の政権交代の「クーリングオフ」を求める声が日増しに大きくなっていること
3)次の民主党代表の任期が僅か1年に過ぎないこと

これら3つの「現実」を踏まえれば、誰が党の代表になろうとも「大きな仕事は手掛けられないのは明白」と新代表が決まる前から辛口で指摘。

そう述べつつ、「ただし、自民党を含む野党との協調があれば少しは事情が変わる」と想定している。

なぜ「自民党主導の大連立」なのか。櫻田教授はその理由として、過去に「挙国一致内閣」を組織した1930年代後半のドイツの事情を踏まえれば、民主党のような「過去に一度も政権を担ったことがない政党」が連立の枠組みを主導することは「あり得ない」ことであり、民主党の迷走はこうした過程を経ずに政権を担当したことの帰結であると語る。

次の民主党政権運営は「最初にして最後の機会になるであろう」とし、自党の都合に対するこだわりを捨て、教授の指摘する枠組みでの「協調」を演出することがカギだとの意見で文を締めていた。

東京新聞<菅政権「多くの成果」 冊子で自賛>

東京新聞は、菅直人首相側近の阿久津幸彦内閣府政務官と国家戦略室スタッフが中心となり、菅政権が「極めて多くの成果を挙げた」と自賛する内容の全29ページの冊子を作成したと報じた。

首相の政治手法では「言葉が足りない、あるいは一貫していないという問題はあった」と指摘しつつ「『市民目線』などの底流は一貫している」と強調する本文の自己アピールは「与野党の反発を招きそうだ」と述べる。

この文書では短命政権となった理由として(1)衆参両院の「ねじれ」(2)民主党内の結束の乱れ(3)内閣支持率の低さと説明するものの、同時に「これらは民主党政権の最初の年の失敗に起因する面も大きい」と鳩山前政権への責任転嫁と受け取られかねない記述もあるという。