刺激の強さの閥値

他の心理学者は次のような実験を考案した。その実験では予めどのような刺激が呈示されるか被験者は知っており、見えないものを無理に何かに見させようとするような不自然なことをやめたのである。つかわれた刺激は、波型、三角、四角の三種類で、そのうちのどれかがいろいろな強さで毎回呈示される。呈示の方法は、大体前に述べたのと同じで、各図形が瞬間的にスクリーンに投射され、それを見ている被験者が毎回今のは何であったか述べるわけである。

ただし前と違って刺激はいろいろな強さのレベルで呈示される。もちろん刺激が強いときには正しく見られて「正答」が、逆に弱い時には「疑答」もしくは「誤答」が生じる。このようにして三つの刺激に対する反応が充分集まると、統計的な手段によって、それぞれの刺激の「閥値」が決まる。閥値とは、刺激の強さの一つで、それ以下ではその刺激は見えず、それ以上では見える、いわば「見える」「見えない」の境目の強さである。ところで、これがこの実験の最もかんじんな点だが、その三つの刺激は、実験のはじまる直前と実験の進行している間に何度もくりかえして、それぞれ正と負と中性の価値を結びつけられるようにしたのである。

その方法は、ちょうどトランプの「銀行」のゲームのように波型か四角か三角の書かれた、そしてふせて置かれた三つのカードのうちの一つに、何がしかのお金をかけるのである。もしもそのカードが、その被験者にとって「当たり」のカードであったら、お金は二倍にして返してもらえ、「はずれ」のカードであったら、かけたお金は没収され、中性のカードであれば、お金はそのまま返してもらえる。ところで、今特定のカード(たとえば波型)を被験者Aに対し「当たり」のカードとすると、このかけごとを何回もくりかえしているうちに、この形、つまり波型の刺激に対して正の価値が結びつけられるようになる。同様にして他の二つの刺激にもそれぞれ負と中性の価値が結びつけられるようにすることが可能である。