急増するバイオ燃料需要

エタノールエチルアルコール)をはじめとするバイオ燃料の需要が急増し、トウモロコシなどの原料とともに取引価格が上昇している。京都議定書で決まった温暖化ガスの排出削減につながることなどが理由。しかし原料確保などの課題を残したまま、数値目標が先行する側面は否めない。しわ寄せが農産物需給の逼迫(ひっぱく)と価格上昇に表れている。

生物由来のバイオ燃料は廃木材などを集めて工場で使うものが進んでいるが、今後の焦点は自動車向けだ。主にトウモロコシやサトウキビからエタノールを作ってガソリンに混ぜるものと、菜種油やパーム(ヤシ)油を原料にしてディーゼルエンジンに使うバイオディーゼルに分けられる。日本や米国は前者、ディーゼル車の普及が進む欧州では後者が多い。導入が始まったばかりのため各国が目標とする混合率もまちまちで、エタノールを3%混ぜたガソリンは「E3」、バイオディーゼル10%混合燃料は「B10」と呼ばれる。

バイオ燃料の普及には幾つかの高いハードルがある。まず生産効率の向上と需要に見あう原料が確保できるかどうか。米ブッシュ政権は1月の一般教書演説でエタノールなどの再生可能燃料を今後10年で350億ガロン(1米液量ガロン=3.78リットル)と約9倍に増やし、ガソリン消費量を2割減らす計画を打ち出した。ただ最新の工場でも1ブッシェル(25.4キログラム)のトウモロコシからできるエタノールは3ガロン程度という。効率の高いトウモロコシを原料に使っても目標達成には世界最大の生産国である米国がもうひとつ必要になる計算だ。それでも米国1カ国分の需要に過ぎない。

さらに現在の技術ではエタノールの製造過程と、トウモロコシなど原料作物の栽培課程でエタノールから得られるエネルギーのおよそ8割分を消費してしまう課題もある。製造過程でエネルギーを使うということは余分な二酸化炭素(CO2)の発生も意味する。

いち早くエタノール燃料が普及したブラジルには余剰なサトウキビを活用する目的があった。ところが今や食料需要の増大だけで農産物需給は逼迫しつつある。米国では今年度、トウモロコシのエタノール向け需要が21億ブッシェル強と輸出量にほぼ並ぶ。在庫減少からトウモロコシ価格は1ブッシェル4ドル台と史上最高値(5.5ドル台)を記録した1996年以来の水準に上昇。米国内では穀物生産者が潤う一方で、トウモロコシを飼料に使う畜産農家が悲鳴を上げる。畜産農家ブッシュ大統領の地盤であるテキサス州にも多く、米政府は「トウモロコシではなく廃木材などを原料に」などと表明している。

米国内での増産には限界があるため内需の増加は輸出余力を低下させる。中国が輸出国から輸入国に変わるのも時間の問題とみられ、国際需給はさらに引き締まる公算が大きい。原料高は食品業界だけでなく、エタノール生産にも採算悪化となって跳ね返る。しかも影響は価格上昇にとどまらない。米国の遺伝子組み換え品種の作付面積はトウモロコシで6割、大豆で9割近くに上昇した。高値は生産者に単位収量の多い遺伝子組み換え品種への転換を促す。日本の食品・飲料メーカーが求める非組み換え(non―GMO)品種の確保は難しくなる可能性が高い。

日本や欧州がバイオ燃料導入を急ぐのには、京都議定書バイオ燃料を温暖化ガスの削減として認めていることが大きい。京都議定書が目指す削減目標(日本の場合は1990年比で6%減)の算定(2008―12年の平均)は来年から始まる。

石油需要が増える中で環境負荷の少ない代替燃料の開発が不可欠なことは言うまでもない。だがバイオ燃料の台頭はこれまで関係の薄かった石油市場と農産物市場を結びつけ、価格の連動性を強めている。バイオ燃料を大量に輸入してでも各国が石油消費や温暖化ガスの削減目標達成を急ぐと、市場に副作用を招き、影響は食品高にとどまらない。輸出需要の増大と高値に引かれて南米や東南アジアが増産に走り、バイオ燃料への傾斜が貴重な熱帯雨林を耕作地に変えてしまう事態さえ考えられる。