高値の金、換金売り広がる

金の小売価格が22年ぶりの高値圏で推移するなか、金を保有する人の換金売りが活発になってきた。売却益を手にする投資家が増えることで、金投資への関心が高まる契機になるかもしれない。

貴金属販売大手の三菱マテリアルではここ1カ月ほど、投資用金地金の顧客向け販売量と顧客からの買い取り量の比率が3対7前後と、買いが売りを上回っている。同社が今の社名になったのは1990年だが、それ以前の社名である「三菱金属」の刻印がある地金も持ち込まれている。

最大手の田中貴金属工業では、1月の販売と買い取りの比率は1対8程度。販売量は昨年12月とほぼ変わらないが、買い取り量は特に価格上昇が鮮明になった1月中旬から一気に膨らんだ。

同社は昨年、顧客からの買い取り量が2年続けて過去最高を記録。高値で販売は振るわず、売りと買いの比率は1対3程度だった。年の後半は相場高騰も一服したため買い取りの増勢も収まったが、今年に入っての相場上昇で再び投資家の売り意欲は高まっている。

年初に急落した金価格はインドや中国の堅調な現物需要をみたファンドの買いが膨らむと反発。ドル建て価格は1月中旬から上昇が加速した。これに為替の円安傾向も重なり、円建て価格の上げ幅は拡大。大手貴金属店の金小売価格は2月27日に1グラム2819円と、消費税抜きの比較で85年4月以来の高値となった。

日本で金投資が本格化したのは、金の輸出入が完全自由化された1978年から。直後の81年には6495円の最高値をつけたが、その後はプラザ合意後の円高や90年代の各国中央銀行の売却によるドル建て価格の下落で値下がり傾向が続いた。しかし、3000円、2000円と大台を割るごとに値ごろ感からの買いも入り、こうした地金が最近の価格上昇で再び「換金売り」に出てきているようだ。

現在の高値局面では新規の販売は振るわない。ただ「問い合わせは増えており、資産保全への関心は高い」(三菱マテリアル)。3000円台が「買い時」と見られていた時代はさほど昔の話ではない。