合繊原料に生産能力過剰の波じわり

「生産能力の過剰に悩んでいます」

長年、合成繊維メーカーの口癖だったこの言葉が最近、川上の合繊原料メーカーのものになりつつある。オイルマネーを蓄えた産油国や好調な経済に支えられた中国のメーカーが、合繊原料事業に相次ぎ新規参入しているためだ。

最も早くその兆候が現れたのがポリエステル原料の高純度テレフタル酸(PTA)。昨年10月以降、中国で多くのプラントが新規稼働し、足元では「アジアで約400万―500万トンの能力過剰状態」(出光興産)となった。

価格にも能力過剰の影響は色濃くにじみ出ている。粗原料のパラキシレンは昨年11月から今年1月までに約6%値上がりしたが、PTAの価格は逆に約2%下がった。

パラキシレンが慢性的な不足状態にあり、PTAの供給量そのものはそれほど増えていないようだ。しかし、メーカー数が増えたことで、売り先の確保を狙った値下げ競争が起きており、PTA各社の収益は大幅に悪化している。

他の合繊原料にも能力過剰の波は押し寄せている。「最近、サウジアラビアやロシアからナイロン原料の生産技術を買いたいと打診があった」と打ち明けるのは、ナイロン原料であるカプロラクタム大手の宇部興産。同社は申し出を断ったが、「今後、合繊原料事業への進出は確実に増える」と危機感を強める。

能力過剰が鮮明になれば、収益を確保できないメーカーが淘汰されていく可能性もある。

中東やロシアなど産油国にあるプラントは豊富な資源から原料を確保しやすい。一方、合繊原料の最大需要地である中国など消費地にあるプラントは輸送費や人件費、関税などを勘案すると強いコスト競争力を持つ。

となれば、アジアで厳しい立場に立たされるのは産油国でも消費地でもない日本や韓国、台湾などのプラントだ。数年は収益が圧縮されたままの「我慢比べ」の状況が続くとの見方が強い。しかし、その間に各社は激しい競争の中で生き残るすべを探る。場合によっては業界再編につながることもあるだろう。

集団から誰が脱落し、誰が残るのか。合繊原料業界は大きな曲がり角に差し掛かっている。