企業のニーズと働く者のスキルの乖離

つまり、失業率が低下するためには、平均で2・7%以上の実質GDP成長率が必要であることがわかる。それより低いGDP成長率では、徐々に失業率は上かってしまう。つまり、失業率を増やさないためにも、3%程度の経済成長は、最低限必要ということである。逆に言えば、日本にはそれだけの供給能力の余力があると言うことだ。デフレが長期間続くということは、経済が慢性的な需要不足に陥っているということでもある。日本経済は、体を持て余した状態に置かれているのだ。日本人のマンパワーを無駄にせず、活用するためには、最低3%の経済成長が必要であり、また、それが余裕で可能だということだ。ワークシェアリングを進めるためにも、デフレを脱却することが大前提になる。

働きたい人に仕事がいきわたることも重要だが、それだけでは希望のある元気な社会とはならない。待遇の面でも報酬の面でも、人間的な生活が保障され、さらに将来に希望がもてるような、明るいライフデザインを描ける必要がある。若い時期には、多少賃金は安くても、将来に向けた職業的訓練を受ける機会が、やる気のある人なら誰にでも与えられ、自分の特性を活かした仕事を見つけ、その技能を磨いていくことができる仕組みが必要である。その分、働き盛りの年代では、十分に収入が増え、生活が安定する仕組みが求められる。

現実には、職業技能をもたない若年層の雇用が非常に厳しくなっている。その要因として、量的のみならず質的な雇用ギャップが関係している。雇用とは、仕事という需要が存在すれば、それで生まれるものではない。いくら需要があっても、働き手の側が、その能力や技能や意欲を備えていなければ雇用は成立しない。つまり供給サイドの事情も関係する。企業側のニーズと労働者側の職業技能などとのズレが広がっているのである。実際は、かなり以前から質的雇用ギャップが存在したのだが、企業が再教育のコストを負担することで、そのギャップを埋めてきた。終身雇用制を前提としていたので、それも可能だったのである。

しかし、転職が当たり前となるとともに、価格競争で余裕がなくなった企業は、若い人に訓練的なコストをかけることができなくなっている。即戦力を雇って、とりあえず目の前のコストを下げようとする。しかし、若い世代の技能が育たないことは、長期的に見ると、日本の経済成長の低下を一層進めてしまう。それに拍車をかけているのが、学校から職場への移行が円滑にいかなくなっているという問題である。若者が学校時代に学んできたものと、企業が求めるニーズに大きなミスマッチが起きている。学校が提供している教育が、社会や企業の求めるものと乖離し、成績優秀とされた人材でさえ、企業では通用しないという事態が頻繁に起きている。使い物にならない日本人よりも、優秀な外国人を雇用しようという企業も増えている。

今後は、教育から職業訓練への移行がスムーズにいく仕組みを作り、また、職業訓練を教育の一部と考えることで、そのコストを半分程度は国が負担する仕組みを作る必要がある。それは、企業だけでも、教育だけでもできないことであり、両者の連携が必要なのである。その連携が成功を収めている国がある。スイスである。スイスは、若者の失業率が非常に低いことで知られてきた。リーマン・ショック、ギリジャーショックとヽヨーロッパを金融危機が直撃したが、その後の二〇一〇年現在でも、スイスの失業率は4%を切るほどであり、平均失業率10%のユーロ諸国の中では、出色の存在となっている。経済も安定し、しかも手堅い経済成長を続けてきた。財政も極めて健全である。国民の幸福度は、先進国の中で随一である。