地球に生起する自然現象

その解決は容易なことではないが、我々が地球のことをよく知り、そして人間とはなんぞやについて深く認識する以外方策はない。その結果、地球と人間はいかにして共生できるかが見えてくるはずである。それを探ることが、地球学の目的である。地球学とでも称すべきものを今後建設しなければならない。これまでの個別の学問分野の単なる総称としての地球科学ではこのことが可能とは思えないからである。

以下では、まず現在の地球について認識し、それを地球史にまで拡大し、次いで空間スケールを太陽系にひろげ、その進化と起源を探る。そうした視点からみた現代と未来については最後に簡単に論じる。

地球に生起する自然現象は、ぬいめのない織物のようなものである。この表現は名古屋大学の島津康男が二〇年ちかく前に用いたものだが、彼がその頃すでに一九九〇年代の地球科学の方向性を予見していたことを示している。というのは、一九八六年にNASAのまとめたグローバルーチェンジヘの取り組みとしての地球システム科学は、まさにそのような観点にたつものだからである。

地球は磁気圏、気圏、水圏、生物圏、地圏からなり、そこでさまざまな物理過程、化学過程、そして生物過程がからみあい、自然現象が生じる。しかも、子不ルギーや物質の循環は、地球を構成する各圏間で閉じているわけではない。そのうえ、過去のうえに現在があるという歴史的存在である。

したがって従来のように、地球物理学、地球化学、地質学、生物学など、方法論によって学問分野をわけたり、あるいは大気科学、海洋科学、固体地球科学など、対象によってわけなりすることは本来意味がないといえる。

といっても、最初からそこに関与するプロセス全てをまとめて考えることはできない。そこで、従来ぱそれぞれに固有な自然現象に焦点をしぼり、研究を進めてきたといえる。これはいわば学問の発展段階がその程度であったともいえる。対象あるいは方法論ごとに問題をしぼって研究することは、それはそれで重要なことである。ここでそれを批判するつもりはない。現在でも各分野、各圏ごとに固有の問題で、まだ未知のものが数多く残されているのも、また事実である。しかし、我々人類が現在直面しつつある諸問題は、そのような視点からだけでは解決されないだろう。