偽の関係の発見

今かりにこの関係を示すための、もっとも単純な手段として、マッカーシーに対する賛成を示す横の行の、パーセンテージを比較してみる。すると政治的寛容度の高いグループは三五パーセント、寛容度の低いグループは六〇パーセントという数字がでる。政治的寛容度が高いグループのマッカーシー賛成の、パーセンテージ(三五パーセント)から、寛容度の低いグループのパーセンテージ(六〇パーセント)を引くと、三五パーセント引く六〇パーセント、すなわちマイナス二五パーセントという数字がでる。つまりこの両者のパーセンテージの差は二五パーセントとかなり大きいことが分る。この二つの変数の関係に関する限り、政治的寛容度の低い者は、マッカーシーに賛成であるという関係が証明できたように思われる。

しかしこの調査の研究者の、マーチンートロウ教授(Martin Trow 1926)はこの両者の関係は、さらにより根本的な変数、つまり教育水準を統制変数に使って、テストしなければならないと考えた。それは二変量間の解析だけでは、統制群のない実験のようなものだからである。他のどんな重要な変数が背後にかくれていて、従栖変数であるマッカーシーに対する態度に、影響を与えているか分らない。そこで前に示した多変量解析のモデルにおけるように、統制変数を導入して、もともと存在した二つの変数の関係をテストしたのである。すると驚いたことに、パーセンテージの差は、事実上消えてなくなってしまった。等号の左の二変量解析で存在した相関関係が、等号の右の多変量解析における四つの表では、きわめて小さくなり事実上、消えてなくなってしまったのである。

ここでもとの二変量解析の相関関係が消滅したということは、この二つの変数の関係が、実は偽の関係(spurious relation)に過ぎなかったことを示している。つまり図に示す通り、本当は教育水準という、もっと重要な変数が、この偽の関係の背後にあったのである。そこで教育水準が高ければ、政治的寛容度も高く、マッカーシーにも反対であるという、影響を与えていた。従って政治的寛容度とマッカーシーに対する態度という、二つの変数の関係だけを見ると、政治的寛容度が高ければ、マッカーシーに反対という「偽の関係」が、観察されたのである。

これは前の章で述べた「イギリスの闘い」の実験の例で言えば、宣伝映画の影響と考えられていた態度の変化が、実は映画以外の原因の結果であったという場合に似ている。もちろんこのマッカーシーに対する態度の解析のように、政治的寛容度と、マッカーシーに対する態度との関係が、偽物だと分ってしまったら、研究者は解析をやり直さなければならない。しかしこの場合、教育水準が、マッカーシーに対する態度だけでなく、政治的寛容度に対しても、重要な独立変数であることが発見されたことは、大きな収穫と考えなければならない。事実、高等教育を受けた者が、政治的自由主義の立場をとるということが、これらの研究を通じて、動かし難い事実として確認されてきたのである。