規格大量生産の実行

これをピークとして下落に転じ、九〇年代末には一ドルー四〇円台になった。その後は一進一退だが、長期趨勢的には円安方向と見る者が多い。中国元との関係でも、九七年までは円高一方だったが、二〇〇〇年からは中国元の引き上げが話題になり出している。国際収支の黒字が続いているのに、円の為替レートが下落するのは、資金の流出があるからだ。日本は投資の対象として魅力が乏しい。二〇〇一年に日本から外国に出て行った直接投資は四兆円なのに対して、外国から日本に対して行われたそれは二・一兆円、出る方が入る方より二倍も大きい。

その最大の理由は、日本が得意としてきた規格大量生産において、韓国、台湾、タイ、とりわけ中国に比べて、優位性が薄れていることである。奈良県大和郡山市に中谷酒造という会社がある。生産量は一〇〇〇石ぐらい、全国に二〇〇〇軒ほどある酒造業者のなかでも小規模な方だ。ところがこの会社、一九九五年から中国天津市醸造工場を設け、日本酒を生産している。今では年間一四万ケースを出荷、中国にある日本料理屋の大半に納入しているという。

天津での酒造は、最も伝統に忠実な方法で行われているのだが、原料の米も水も人もすべて現地調達だ。日本からは社長が生産管理と営業に通っているだけで、酒造りの技術者技能者は出していない。すべてを数値化することで、かつては最も熟練を要するといわれた酒造りも、人の目や腕に頼る必要がなくなった。中国の人々でも美味しい日本酒が造れるのである。

コンピューター制御技術の発達によって、中堅技能者や中間管理職が少なくとも、規格大量生産が実行でき、高品質製品が生産できるようになった。特に九六年頃からは、日本の企業でも生産拠点をコストの安い中国やアジア諸国に移す企業が続出、今ではほとんどあらゆる分野の製造業が中国などに生産拠点を置いている。

中国といえば人件費の安さが利点という思い込みがあるので、従業員がずらりと並んだ人海戦術生産現場と思いがちだが、実際は大違い。新しく造られた設備だけに、コンピューターと産業用ロボットを駆使した工場が多い。人手と技能に頼っているのは、むしろ日本の中小企業、東京大田区東大阪市の小規模工場である。これでは、熟練の中高年が老いれば後継者難で閉業せざるを得ない工場が続出すると危惧されるのも当然だろう。

中国よりも先行して工業化した韓国や台湾には、日本よりずっと進んだ分野もできている。特に電子製品の生産やITサービスでは日本を上回るものが多い。人件費やインフラストラクチャーのコストが高いだけではなく、技術と産業構造の点でも、日本はアジア諸国に対して遅れを取り出しているのである。