大気安定化国際基金

たとえば、化石燃料を燃焼して、大気中に二酸化炭素を排出するとき、含有炭素一トン当たり一〇〇ドルの炭素税をかけるとします。化石燃料の燃焼が日本でおこなわれていても、アメリカでおこなわれていても、また、インドネシア、フィリピンでおこなわれていても、一律に一トン当たり一〇〇ドルの税が課せられることを意味します。日本の場合、温室効果ガスの排出量は、一人当たりの二酸化炭素に換算して、ほぼ二・五トンですから、一人当たりの炭素税支払いは二五〇ドルです。

日本の一人当たりの国民所得は一万九〇〇〇ドルですから、一一五〇ドルの炭素税支払いは、ほとんど意識されないでしょう。アメリカの場合にも、一人当たりの国民所得一万七〇〇〇ドルのうち、炭素税支払いは三四〇ドルで、これも無視できる額です。ところが、インドネシアでは、一人当たりの国民所得は四〇〇ドルで、そのうち炭素税支払いは三〇ドルとなります。フィリピンの場合も同様で、一人当たりの国民所得五〇〇ドルのうち、炭素税支払いは六〇ドルという高い割合を占めることになります。

一律の炭素税の制度は、国際的公正という観点から問題があるだけでなく、発展途上諸国の多くについて、経済発展の芽を摘んでしまう危険をもっています。炭素税の制度が提案されるとき、発展途上諸国がつよく反対するのは当然だといってもよいと思います。国際的公正という点を考慮にいれると、炭素税の制度はつぎのようなかたちをとるべきではないでしょうか。

大気中への二酸化炭素の排出に対してかけられる炭素税を、その国の一人当たりの国民所得に比例させるという制度です。たとえば、日本で含有炭素一トン当たり一九〇ドルの炭素税をかけるとき、アメリカでは一トン当たり一七〇ドルとなり、インドネシアでは四ドル、フィリピンでは五ドルとなります。インドネシアでは、一人当たりの国民所得四〇〇ドルのうち、炭素税支払いは十ニドル、フィリピンでは、一人当たりの国民所得五〇〇ドルのうち、炭素税支払いは三ドルですみます。

炭素税率を、一人当たりの国民所得に比例させる比例的炭素税の制度は、地球大気の安定化に役立つだけでなく、先進工業諸国と発展途上諸国との間の不公平を緩和するという点で効果的です。

この制度のもとでは、化石燃料の消費に対して、排出される二酸化炭素の量に応じて炭素税がかけられると同時に、森林の育林に対しては、吸収される二酸化炭素の量に応じて補助金が交付されるものです。しかし、この三〇年間、先進工業諸国と発展途上諸国の間の経済的格差は拡大する傾向をもち、南北問題はますます深刻化しつつあります。もともと炭素税自体、発展途上諸国の経済発展をさまたげるものですので、比例的炭素税の制度をとっても、南北問題に対して有効な解決策とはなりません。