為替レートによる対外不均衡

国際流動性の調節難に加えて、対外不均衡の調整メカニズムもうまく作用しなくなったことから、国際通貨システムの機能不全現象は誰の目にも明らかとなってきた。これまでであれば、良きにつけ悪しきにつけ、米国の金融政策の変更が他国にも波及し、主要国で流動性金利が同一方向に変動した。このことは景気変動が主要国において同時性をもつことを意味する。また、これによって対外不均衡が、各国間の景気変動のズレで拡大することは回避されてきた。だが、九〇年代に入ってからはすでに指摘したように、銀行部門による流動性の創出が各国で不順となり、経済にデフレ的効果を発揮している。

米国のように銀行部門による間接的資金フローに代わって資本市場経由の直接金融が急拡大し、景気拡大をファイナンスしうるならば、米国と他国、とくに日本との景気循環におけるズレは両極端となる。日本ではBIS規制と巨大な不良債権問題が重なって、銀行の信用創造能力が著しく低下している。また、バブル崩壊後は株式市場を中心とする資本市場での資金調達も困難化している。

このため、景気拡大をファイナンスする有効な手段が存在し難くなっている。そして、この日米間の景気差が対外不均衡に対し拡大方向に作用している。巨大な経常収支赤字国の米国では、景気が拡張期に入り、対外赤字が一段と拡大している。これに対し、他国、とくに日本では深刻な景気後退が長期化している。これを反映して、もともとから巨大であった経常収支黒字が、一層の拡大をみている。

為替レートによる対外不均衡の調幣メカユズムも期待通りに機能しなくなっている。外為市場におけるドルの動きがこのことを如実に示している。九〇年代に入って経常赤字が拡大する過程で、FRBが積極的な金融緩和策を取り続けたなかで、ドルは九四年初めまでをと収は、実効レートでは上昇傾向を辿ってきた。これは対外不均衡の足正という観点に立つならば、逆効果となることはいうまでもない。