アジア域内貿易の増加

すでに激しい経済摩擦が起きているアメリカからではなく、アジアから貿易黒字を稼ぐ比重が高まったということは、それだけをみればたしかに日米間の貿易不均衡問題の激化が避けられたことになる。しかし、このまま対アジア出超額の比重が増加していくことによって、日本をとりまく貿易不均衡問題が緩和の方向に向かっていくのかといえば、それはきわめて難しい。

というのは、すでにみたように日本のアジア向け輸出が増加している背後にぱ、アジア諸国での産業基盤の整備に伴って日本からの素材輸出が増加していること、またアジアに進出した日本企業が、現地で調達できない機械や部品などを日本から調達しているなどの事情がある。これらは結局アジアからの先進国へ向けての輸出の増加に結びつく。そのさい、中心はやはりアメリカ向けの輸出であろう。実際、アジアの日系企業現地生産分の多くは、アメリカ向けの輸出にあてられている。

最近は、アジアの域内貿易が増加しているが、そのことをもってアジアの先進国市場からの自立化が進んでいることを強調する議論が少なくない。しかし、「こうした域内貿易の拡大は、最終的には先進国向けに輸出される製品の生産工程が直接投資を通じて東アジア地域に分散し、その結果として製品・半製品の域内取引が増加している」(『日本銀行月報』一九九三年一二月号)という側面が小さくない。

日米および東アジアの貿易関係について、八五年と九二年とを比較した図をみても、たとえば、NIESは対米黒字を減らし、対中黒字を増加させているが、他方で中国の対米黒字(香港経由向けを含む)が増加しているという関係になっていることがわかる。これと同様に、日本の対アジア黒字の増加も、結局はアジアの対米黒字の増加に結果する可能性が高く、そうだとすれば日本の黒字、アメリカの赤字という国際的不均衡はむしろ拡大することになる。