日本産業の空洞化

平成不況の中で一層の円高が進み、為替レートで評価すれば日本の国内生産コストがアメリカのような高コスト国をはるかに上廻るような事態になると、もはや最も効率的な日本の企業でもそのままの状態で国際競争力を維持することは難しくなる。実際一九九四年の前半に円の対ドルレートが一〇〇円に接近した頃、日本の最も効率的な自動車や電子産業などのなんとか赤字を出さないギリギリの社内レートは一一五円前後であった。

もしこうした為替レートが大きく変化せず、あるいはさらに円高方向へ進むというようなことになると、国際競争の波にさらされる日本の最も効率的な産業部門や企業群は低コストを求めて海外にその生産能力と雇用機会を移転するようになるだろう。そうなると日本の国内では産業が空洞化し、良い一雇用機会の減少によって失業が増大するおそれがある。

もちろん生産の海外シフトが起きても、日本の産業がただちに空洞化したり失業が急増したりするわけではない。日本の産業の技術はかなり高度な水準にあるから生産能力が海外に移転される過程では日本からそうした海外地域へ生産設備などの資本財が輸出されるため、過渡的にはかえって日本国内の資本財生産が刺激されるという効果も予想される。

しかし、技術移転が進展してゆけばやがて高度な技術も移転され資本財生産そのものも海外ヘシフトしてゆくであろうから、やはり長期的にはそのままでは日本経済の空洞化と失業の増大は避けられないだろう。しかも、日本の製造業の海外生産比率は一九九三年時点ではまだ六%程度であり、二〇%前後の水準に達している欧米諸国にくらべれば著しく低い。したがって国内の高コストに対する産業界の適応が進むにつれて、日本の産業の海外生産比率は今後まだ大幅にふえる可能性がある。

この問題は日本の将来の経済産業構造をどう築くかという経済政策や産業構造政策にとっての重大な戦略課題であるが、企業にとっても重大な戦略課題を提起する。企業は海外直接投資を効果的に進めることが大きな戦略課題となると同時に、国内に中核的な生産能力と開発能力を維持することが重大な課題となる。